吉里吉里の笑顔と思い出
大槌町中央公民館吉里吉里分館
1966(昭和41)年創立。2011年の東日本大震災で全壊し、2018年に吉里吉里地区の中心部に再建。14代分館長の芳賀博典さんは2013年に就任し、自治会や学校と連携したイベントの企画運営など、住民の交流機会の創出に尽力し続けている。
吉里吉里の笑顔と思い出
大槌町中央公民館吉里吉里分館
1966(昭和41)年創立。2011年の東日本大震災で全壊し、2018年に吉里吉里地区の中心部に再建。14代分館長の芳賀博典さんは2013年に就任し、自治会や学校と連携したイベントの企画運営など、住民の交流機会の創出に尽力し続けている。
大槌町中央公民館吉里吉里分館は、子どもからお年寄りまで、みんなが気軽に集える地域の居場所。東日本大震災からの復興に向かう中で、吉里吉里地区に住む人たちの「お互いに助け合い、絆と人を育みながらここに住み続けたい」という願いが形になった公民館です。数多くの行事やイベントが開催され、企画運営にも携わる背景には、分館長・芳賀博典さんの恩返しの思いがありました。
住民が思い描いた
みんなが集う公民館
大槌町の北部に位置する吉里吉里地区。夏場は海水浴客で賑わう吉里吉里海岸を臨む高台に複数の集落があり、代々続くご近所さん同士の繋がりや助け合いの思いが深く根付いています。
その中心部に建つ大槌町中央公民館吉里吉里分館は、広い芝生に面して大きな窓が並ぶ縁側が印象的な建物です。分館長の芳賀博典さんは縁側を指さしながら「井戸端会議や散歩の休憩スポットに打ってつけでしょ?今日は天気がいいから、寝転んだら気持ちいいべなぁ」とにっこり。
館内には会議室やキッチンがあり、開放感あふれるホールは用途や希望に合わせて仕切って使うことも可能。お茶っこの会や作品展示、フラダンスなど各種サークルの練習・公演まで様々な形で利用され、多くの人に親しまれています。「憩いの場として気軽に立ち寄ってほしい」との思いから、ホールの一角をフリースペースに。すぐ近くにコンビニと郵便局があるため、用足しのついでに吉里吉里分館に立ち寄る人もいるのだとか。
吉里吉里学園小学部もほど近く、放課後には子どもたちの居場所として賑やかな声が響きます。
「子どもたちはとにかく元気。芝生もホールも、みんなで走り回って遊んでいます。自由にできることが一番と思って、いつも見守っています。家でも学校でもない、この場所だから好きに遊べるって子も居るでしょうから」と、目を細める芳賀さん。大きなけがをしないこと、夕方の5時には家に帰ることを、子どもたちといつも約束しているそうです。
吉里吉里分館の立地や作りは、東日本大震災からの復興まちづくりの過程において、地区に住む人たちが町役場や専門家たちと話し合いを重ねて実現したもの。日々気軽に利用でき、コミュニティの核となる施設を目指し設計されました。
取材中も次々と人が訪れ、芳賀さんは元気な挨拶と笑顔で出迎えます。
「人が出たり入ったり、せわしなくてすみません。ちょうどイベントを終えたばかりで、備品の返却や写真の受け渡しの対応があって。次のイベントの準備も同時進行だから、とにかく毎日忙しいよ」と、誇らしげに笑いました。
自身も吉里吉里に生まれ、長く住み続けてきた芳賀さん。訪れる人たちとの何気ない会話の中に、かつて思い描いた復興の風景と、吉里吉里分館が歩んで来た日々が滲みます。
バラエティー豊かな行事は
吉里吉里への恩返し
コミュニティを担う拠点として、吉里吉里分館は「凧あげ大会」「吉里吉里海岸一斉清掃」「夢花火 吉里吉里花火大会」など年間を通して数多くの行事やイベントに携わっています。地区の町内会や実行委員会が主催するもの、公民館の事業として開催するものと様々ですが、どれもお互いの協力が欠かせません。
中でも毎年10月に行われる「吉里吉里運動会」は、4つの町内会が合同で開催する一大イベント。東日本大震災で一度は途絶えたものの、誰からともなく「またやろう」と声が上がり、2014年に再開。コロナ禍を経て4年ぶりの開催となった2023年には50回の節目を迎えました。お隣・浪板地区に新しく設立された自治会も加わり、応援も白熱。多世代が参加できるよう工夫を凝らした種目や町内会対抗の綱引きで競い合い、およそ300人が盛り上がりました。お昼ご飯はカレーライスなどのお振舞い。子どもたちに「地域に住む様々な人が集まって同じものを食べる」という経験をしてもらうことや、災害時の炊き出しの訓練も兼ねているそうです。
吉里吉里学園小学部の子どもたちを主な対象としたサマースクール「地域で育てる夏休み」では、森林教室やお寺での座禅、消防団員体験などをのべ8日間にわたり開催しました。吉里吉里分館は学校側やそれぞれの受け入れ先と連携して運営にあたり、主な会場となった他、キャンプ体験では敷地内の芝生にテントを張って子どもたちが寝泊り。各回40人ほどが参加し、暑さに負けない輝く笑顔で夏休みを満喫しました。
「地区や分館の活動を『すごいね』と言ってくれる方も多いですが、特別なことはしていません。私たちも幼い頃から、こうして吉里吉里に育ててもらったんです。たくさんの思い出は、大人たちが作ってくれたもの。その恩返しとして、当時の大人たちと同じことをしているだけ。でも、積み重ねてきたコミュニティを…一人一人が出来ることを活かして助け合って来た結果を感じ取ってくれているのだとしたら、とても嬉しい。まだまだ頑張らなくちゃ!」。
たくさんの笑顔が並ぶイベントの集合写真を見つめながら、芳賀さんは地域への思いを噛み締めました。
笑顔と思い出こそが
ここに根差すコミュニティ
今年の9月、吉里吉里分館では初めて「敬老会」を開催しました。これまで町主催で行われてきましたが、今年度は各地区で開催することに。芳賀さんたちは、長く地区を支えてきたお年寄りに感謝を伝える場として設定し、高校生によるお楽しみ企画や子どもたちの郷土芸能演舞などのプログラムで思い出に残る一日を作り上げました。
「地区でこういう場を持つことはとても価値があると思いました。孫が来て踊ってくれたとか、誰々の娘さんが席まで案内してくれたとか、日々交流がある人から直接『ありがとう』って言われたら何倍も嬉しいですから。よそ行きの恰好をしてくる人もいて、年に一度の晴れの日を楽しんでもらえたんじゃないかな」と話す芳賀さん。
参加した高校生や子どもたちにとっても「敬老会」は思い出の一つ。芳賀さんたちが企画や運営にあたる姿もまた、彼らの中で息づいています。
地域の中高生による防災学習や自主企画もサポートしている吉里吉里分館。親元を離れて大槌高校に通う「はま留学」の生徒たちも、芳賀さんは理解者の一人として見守り、時に友人のように寄り添っています。今年の3月には1期生が卒業を迎え、それぞれの未来へと旅立っていきました。
「3年も居たんだから、みんな地域の子どもだよ」と、生徒たちと過ごした時間を振り返る芳賀さん。「はま留学の生徒も、ここで生まれ育った子どもたちも、どこまでも広く羽ばたいてほしい。もちろん、いつか帰ってきてくれたら嬉しいけれど、故郷である吉里吉里や大槌のたくさんの思い出とともに、実りある人生を送ってもらえることが一番の願いです」。
最後に芳賀さんは、吉里吉里地区の次代を担う若者たちへメッセージを話してくれました。
「普段の会議やイベントで頑張ってくれている姿は頼もしくて、私たちの背中から自然と学んでくれているのかなと嬉しくなります。いつの時代も表には見えない苦労や努力がありますが、自分たちが楽しみながら頑張れば、誰かが笑ってくれる。その笑顔こそコミュニティなんだよと、若い人たちに伝えていきたい。自分の好きなことや特技を活かして、これからも一緒に吉里吉里を明るく盛り上げていってほしいです」。
(2024年9月30日取材)